京都・笠置寺:スピリチュアルな聖域に伝わる解脱鐘(重要文化財)

関西本線の笠置駅からハイキングコースを登ると山頂付近に山門が現れます。笠置寺がある南山城エリアは、古くから交通の要衝として栄え、特に平安時代から戦国時代にかけて重要な役割を果たしました。多くの城跡や古寺が点在していて、木津川が流れる美しい自然環境に恵まれています。また、平城京からの歴史が残る地域で、古墳や遺跡が点在しています。雲海に浮かぶ聖域として弥生時代から信仰されてきた笠置山は、東大寺や興福寺との交流を通して歴史上重要な役割を果たしました。

笠置寺境内からの眺望

巨石に刻まれた古代信仰の摩崖仏

笠置山は弥生時代から巨石を神として崇拝する信仰の聖地でした。お寺の境内には巨石に刻まれた二つの大きな磨崖仏があります。正月堂の向かいにある弥勒磨崖仏は飛鳥時代に天武天皇が建立しましたと伝えられています。その全貌を失い、今ではシルエットのみが確認できます。一般的には、後醍醐天皇が鎌倉幕府軍との戦いで笠置山を本拠地とした時、戦乱による炎で花崗岩が崩れたとされています。

天智天皇の呼びかけで作られたと伝わる弥勒磨崖仏

炎によってある程度の被害は受けると思いますが、岩肌が跡形もなく姿を消すのは奇妙です。ご住職のお話によると、部分的に焼け残ったお姿を気の毒に思い、誰かが人為的に全体の姿を削り取った可能性も指摘されています。

二月堂のルーツは笠置寺の正月堂

奈良の大仏が完成した752年5月。その年の1月に大仏製造を指揮していた東大寺の和尚さんがやってきて、笠置山に正月堂を作り十一面観音悔過という法要を行いました。この法要は毎年3月に東大寺二月堂で一度も途絶えることなく継承されています。これが現代ではお水取りと呼ばれている儀式です。東大寺には二月堂、三月堂、四月堂、五月堂があるのに正月堂が存在しません。実は第一回目のお水取り法要が行われた正月堂は笠置寺にあるからです。

東大寺の二月堂とお水取りは笠置寺がルーツ

梵鐘しらべ

時間基本的に除夜の鐘のみ
打数
前捨て鐘
実質
後捨て鐘

鬼滅の刃に登場・柳生一刀石

笠置寺と奈良を結ぶ街道・笠置街道・柳生街道・剣豪で知られる柳生一族・柳生宗矩が東大寺と笠置寺は古くから交通の要所で、それに伴い発展した街道が存在しています。その街道の中間地点には、静かながら歴史的な柳生町が広がっています。ここは剣豪で知られた柳生一族の発祥地であり、柳生宗徳が活躍した土地でもあります。

柳生の里にある山には、「一刀石」と呼ばれる岩がそびえています。伝説によれば、この岩は柳生宗徳が一刀両断したとされています。また、このエピソードがアニメ『鬼滅の刃』の主人公である炭治郎の修行シーンに影響を与えたと言われています。

梵鐘ものがたり

いつごろ造られたか分からない伝虚空蔵磨崖仏

後醍醐天皇と鎌倉幕府の戦い

鎌倉時代末期、討幕を決意した後醍醐天皇は、幕府軍との主戦場として笠置山に立てこもりました。1ヶ月の激戦の後、後醍醐天皇は鎌倉幕府の軍勢に敗れて島流しとなりました。この戦いでお寺は全焼してしまいましたが、金属の梵鐘は焼け残りました。

東大寺から贈られた六葉蓮弁の梵鐘

笠置寺の梵鐘は小ぶりですが、戦前には国宝に指定されるほど貴重な文化財です。興福寺から移動してきた解脱上人が住職を務めていた時代に作られたので「解脱鍾」と呼ばれています。解脱鍾は裾の部分六ケ所に深さ1センチほどの浅い切り込みを入れて、中国唐の梵鐘デザインを取り入れています。これは唐に三回留学した東大寺の重源上人が監修したものと言われています。奈良の興福寺と東大寺が一緒になって笠置寺の鐘を作るほど、笠置寺は奈良仏教と関係が深く重視されていた証拠だと思います。六葉蓮弁の梵鐘はこの笠置寺と山口周防阿弥陀寺にありましたが、現存しているのはこの解脱鍾のみという貴重なものです。もうひとつ珍しい特徴として、解脱鍾には東大寺から送られた銘が刻まれていますが、鐘の表面では無く裾の側面に銘がある点です。建久七年(1196年)に作られたことがうかがえます。

裾の側面に銘が読み取れる

黄金が含まれるかもしれない梵鐘

ご住職から金属成分に関する興味深い伝承を伺いました。解脱上人がこのお寺の住職として勤めていた時、閻魔大王の使いとされる俱生神(くしょうしん)が現れて閻魔大王への面会を求められました。それを了解した解脱上人は俱生神の案内で閻魔大王に会い、説法を行ったと伝えられています。閻魔大王は説法のお礼として閻浮檀金(えんぶだこん)という砂金を与えました。この解脱鍾には閻浮檀金が混ざっているため金の成分が多いという話が伝わっています。

現存では唯一の六葉蓮弁鐘

地獄の沙汰も金次第という言葉もあります。将来閻魔大王の判決を受ける際には笠置寺の逸話が幸運をもたらすかもしれません。

アクセス

住所

京都府相楽郡笠置町笠置笠置山29

お寺の鐘しらべ管理人

  • 東京在住のサラリーマン
  • 梵鐘の愛好家
  • 出張先や夜時間に梵活中

皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。

しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。

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