梵鐘単体の評価
神奈川・川崎大師:大人気パワースポットに伝わる平和の鐘
今回は毎年300万人が初詣に参拝に訪れる大人気のパワースポットを訪れます。川崎大師は、成田山新勝寺、髙尾山薬王院とともに、真言宗智山派の関東三大本山の一つです。平安時代末期、川崎で漁師をしていた平間兼乗(ひらまかねのり)が海中から仏像を引き揚げました。仏像をきれいに掃除して小さなお堂に安置したのが川崎大師のはじまりと言われています。この漁師の名前をとって、川崎大師の正式名称は「平間寺(へいげんじ)」といいます。弘法大師が自ら彫ったものと伝えられている仏像は現存していて、大護摩祈祷に申し込むと実際に見ることができるそうです。
川崎宿で大人気だった旅館・万年屋
TOKYOアーカイブから歌川広重「川崎六郷渡舟」
川崎は江戸の入り口として栄えた東海道の宿場町で、最盛期には33軒の食事つき宿がありました。中でも一番人気があったのは万年屋という旅館でした。江戸幕府と条約を結ぶためアメリカから来日したハリスも、下田から江戸に向かう道中でこの宿に泊まりました。江戸幕府はハリスに失礼が無いようにと川崎本陣を用意していましたが、この頃になると本陣は大名でもあまり使わなくなってボロかったようです。そのためハリスは格式にこだわらず新しくて賑やかな万年屋を希望し、結局ここに宿泊しました。この時のハリスと同行奉行のやりとりは「日本滞在記」に詳しく記されています。
梵鐘しらべ
時間 | 3月11日、6月10日、8月6日、8月9日、8月15日、12月31日の年6回 |
打数 | ー |
前捨て鐘 | ー |
実質 | ー |
後捨て鐘 | ー |
残したい日本の音風景100選・川崎大師の参道
川崎大師の仲見世通りにはたくさんのお店が並んでいます。お土産物、久寿餅屋と合わせて飴屋が並び、まな板でトントンと飴を切る音が特徴的です。飴は日持ちが良いためお土産として人気があり、次第に川崎大師のお土産としても定着しました。飴を切るリズミカルな音が参詣者の注目を集め、これが「厄を切る」にも通じることから「痰切り飴」として広く知られるようになりました。この音は「残したい日本の音風景100選」にも選ばれています。
梵鐘ものがたり
毎年8月6日8時45分に平和の鐘が打鐘される
住職による川崎大師の格上げ作戦
川崎大師は江戸時代になると将軍もたびたび参拝するほど、厄除け大師として非常に人気がありました。しかし当初はお寺としての格が高くなく、将軍の参拝は非公式なお忍びとしての扱いでした。そこで、28歳の若さで川崎大師の住職となった隆円は、将軍の参拝を公式なものにしたいと考えてお寺の格を上げるための活動を始めました。隆円の作戦は成功し、最終的には門跡寺院として有名な醍醐寺三宝院の直末となることができました。そして第11代将軍・徳川家斉が41歳の時に前厄の御祓いをするため1813年9月28日の公式参拝が決定しました。
空海入定1150年に建立された八角五重塔
ドラマのような晴れの日の悲劇
公式参拝の知らせは4月に届きました。そこから隆円は準備に奔走します。当日のスケジュールは参拝、食事、お茶、寺宝紹介です。それだけですが将軍を迎えるためには台所や畳を全て新調し、幕府の役人が確認に訪れたり大変だったと思います。そしていよいよ運命の9月28日を迎えます。ところが、その日の早朝に隆円は37歳で急逝してしまいました。この事態を幕府に報告すれば、将軍の参拝は中止になり、これまでの努力が無駄になる可能性がありました。しかし、隣の明長寺が隆円の亡骸を極秘で預かると申し出てくれ、予定通り将軍を迎えることができました。将軍の公式参拝をつとめた川崎大師の人気はさらに高まりました。
京都・東福寺をモチーフにデザインされた三門
戦争から戻った平和の鐘
スイスの時計職人、エメ・アンベール「幕末日本図絵」から
川崎大師の梵鐘は寛政元年1789年に作られました。戦時中に供出されましたが、砲弾に使われることもなく無事お寺に戻り、今も使用されています。現在では平和の鐘として3月11日、6月10日、8月6日、8月9日、8月15日、12月31日の年6回だけ鳴らされます。タウンゼント・ハリスは、川崎大師を訪れた際の手記で「日本の鐘の音色は非常に美しい」と記し、撞木や提灯の大きさについて驚いたというコメントを残しています。
アクセス
住所
神奈川県川崎市川崎区大師町4−48
お寺の鐘しらべ管理人
- 東京在住のサラリーマン
- 梵鐘の愛好家
- 出張先や夜時間に梵活中
皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。
しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。
「お寺の鐘しらべ」では、梵鐘にまつわる文化や歴史を通して、鐘の魅力を発信しています。朝活やお仕事後のひとときに楽しめるプチ旅行の参考としてもご活用いただけます。
一緒に梵鐘を巡る旅に出かけましょう!