東京・九品仏:世田谷のパワースポットと江戸の鐘(都指定文化財)
東急大井町線の九品仏(くほんぶつ)駅から徒歩5分程度の距離に位置する九品仏は、自由が丘エリアの人気住宅街にひっそりと佇んでいます。その名の通り九体の仏像を祀る九体寺(くたいじ)というスタイルのお寺で、平安時代に多く建てられたそうですが、現存しているのはここ九品仏と京都の浄瑠璃寺の二つです。江戸時代初期の建立で、正式名称は浄真寺(じょうしんじ)といいます。今回は世田谷のパワースポット、九品仏・浄真寺に伝わる貴重な江戸時代の梵鐘を紹介します。
400年前に建てられた中品堂の三仏
世田谷区の隠れたパワースポット
私も日常使っている東急大井町線。とても賑やかな自由ヶ丘駅の隣に九品仏駅があります。駅を出ると目の前に趣ある参道が広がります。参道を進むと200年前に作られた仁王門が現れます。別名「紫雲楼」とも呼ばれ一対の仁王像があり楼上には阿弥陀如来、二十五菩薩像、風神雷神像が安置されていて、お寺の守り神となっています。お寺の境内は江戸時代初期に創建された当時の姿をそのまま現代に伝えています。大井町線ユーザー以外にはあまり知られていないお寺ですが、江戸の面影を残す3万6千坪の境内は都内有数の規模を誇ります。
九体の仏像は3体ずつ3つのお堂に配置されています。上品堂、中品堂、下品堂にはそれぞれ上生、中生、下生の仏像が安置されています。つまり上の上、上の中、上の下、中の上、中の中、中の下、下の上、下の中、下の下、という9ランクの仏様が揃っているということになります。生前の努力や心がけによってランク分けされて、それ相応の九品仏が必ず迎えに来てくれるという九品往生の考えに従っています。
3年毎に開催されるお祭りの準備中
スピリチュアルな九体の阿弥陀仏
九体仏が安置されている京都の浄瑠璃寺
京都・浄瑠璃寺の九体仏も同じように手のポーズで9ランクを表していて、仏像の大きさもほぼ同じサイズです。浄瑠璃寺がある南山城エリアは1000年以上の歴史を持つ古代仏教の聖地で、九品仏のスピリチュアルな境内の雰囲気は南山城のお寺を彷彿とさせます。浄瑠璃寺のパンフレットにも、九品仏のことが紹介されています。阿弥陀仏が真東を向いて配置されているのも両寺に共通した特徴で何か特別な結びつきが感じられます。
江戸名所圖會(目録首) 東京都立図書館
梵鐘しらべ
時間 | 16時 |
打数 | 9打 |
前捨て鐘 | 3打 |
実質 | 4打 |
後捨て鐘 | 2打 |
行列が途絶えないパン屋さんコムン・トウキョウ
九品仏のお寺の門前にあるパン屋、コ・ムンTOKYOは、一日中行列が途絶えることのない人気店です。この店でパンを焼いている大澤さんは、日本人として初めてパンの世界大会で総合優勝したレジェンドとして知られています。
このお店の唯一のこだわり。それはひとつひとつのパンを、真面目につくり続けること。興味深いことに、特別な材料や機材を使用していないそうです。
梵鐘ものがたり
300年前に建てられた吹き放し屋根の鐘楼
九品仏の梵鐘は仁王門の左手にあります。300年前に建てられた関東では珍しい吹き放し屋根の鐘楼には精巧な彫刻で十二支があしらわれています。梵鐘には唐草文様や坐像、天人などが描かれていて、江戸時代に京都で流行した朝鮮鍾のスタイルが見て取れます。
東京では極めて珍しい京都風の梵鐘
京都で流行した朝鮮鍾のスタイル
江戸時代に流行した朝鮮鍾スタイルの梵鐘は戦争の影響で殆どが失われました。しかし、この梵鐘は金属供出を免れた貴重な遺物の一つです。その理由は、梵鐘の撞座が菊の花びら模様になっているため、皇室の文様と関連付けられ供出対象から除外された可能性があります。梵鐘と鐘楼は1708年地元の谷岡家から寄進されたと伝えられています。
自由が丘駅はもともと九品仏駅だった
自由が丘と九品仏はお隣同士
大井町線が開業した時、今の自由が丘駅が九品仏駅の名前で使われていました。当時は自由が丘の街もそんなに大きくはなく、このエリアを代表するものとしてがふさわしかったのだと思われます。その後、2年後に新たな駅がお寺の前に作られ、九品仏の駅名はそちらで使われるようになりました。もともと九品仏だった駅は当時の地名から「衾(ふすま)駅」となりましたが、さすがにこれはということか地元の要望から自由ヶ丘に改称されました。もし衾駅の名前がそのまま残っていたら「住みたい町ランキング」上位の顔ぶれが変わっていたかもしれませんね。
アクセス
住所
東京都世田谷区奥沢7丁目41−3
お寺の鐘しらべ管理人
- 東京在住のサラリーマン
- 梵鐘の愛好家
- 出張先や夜時間に梵活中
皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。
しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。
「お寺の鐘しらべ」では、梵鐘にまつわる文化や歴史を通して、鐘の魅力を発信しています。朝活やお仕事後のひとときに楽しめるプチ旅行の参考としてもご活用いただけます。
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