滋賀・園城寺(三井寺):「弁慶の引摺り鐘」と「三井の晩鐘」(重要文化財、残したい日本の音風景百選)

比叡山の武蔵坊弁慶が付けた傷跡が残される初代梵鐘は「弁慶の引摺り鐘」と呼ばれています。江戸時代から使われている二代目の鐘は「三井の晩鐘」として、毎日夕刻の17時に打鐘されます。その音色は「残したい日本の音風景百選」に選ばれ、琵琶湖を見下ろす風景を彩る響きを届けます。

豊臣秀吉の正室北政所によって再建された金堂(国宝)

三井の晩鐘 – 2代目の鐘

現在使用している鐘は、1602年(慶長七年)に豊臣家の支援で制作されました。奈良時代から伝わる初代の古代鍾の形状を受け継ぎながら、鐘の表面には108個の乳が配置されています。除夜の鐘で108回が定着したのは江戸時代からと言われていて、この頃から108乳を持つ鐘が登場します。三井の晩鐘は108乳が確認できる最古の梵鐘です。大晦日には参拝者が多く訪れ、年の締めくくりとして撞き鳴らす風景が恒例となっています。

重要文化財の鐘楼 桃山時代(慶長七年 1602)

「三井の晩鐘」は鐘楼の隣にある売店で800円支払うと撞くことができます。かつてこのサービスが300円だった頃は年間1万人が利用するほど人気だったそうです。御朱印ももらえます。

梵鐘しらべ

時間毎日17時
打数
前捨て鐘
実質
後捨て鐘

三井の晩鐘と龍神の伝説

園城寺(三井寺)の「三井の晩鐘」には、琵琶湖の龍神にまつわる切ない伝説が伝わっています。

琵琶湖の湖畔で子供たちが小さな蛇をいじめている場面を、ある心優しい若者が目にしました。彼は子供たちを制止し、蛇を助けます。その夜、美しい若い女性が若者のもとを訪れ、やがて二人は結ばれ、子供も授かりました。しかし若者は、大蛇が我が子に飴玉を与えている姿を見てしまいます。実は、この大蛇こそが若者を訪ねてきた女性の本当の姿であり、琵琶湖に棲む龍神だったのです。姿を見られてしまったことで、龍神は若者のもとを去りました。

その飴玉の力で子供は無事に育ちます。その話を聞きつけた領主は飴玉を若者から取り上げてしまいました。困れ果てた若者の前に龍神が現れます。「あの飴玉は龍の目です。もう一つの目を使って子どもを育てて下さい。」

龍神は、わが子の姿を見ることができなくなった代わりに、せめて音で成長の様子を感じられるようにと、若者にお願いを託しました。「毎日夕刻に鐘を撞き、わが子の成長を知らせてほしい。そして、一年の節目には除夜の鐘をついて、一年の歩みを伝えてほしい」と。

以来、園城寺では毎日の「三井の晩鐘」と、年末の「除夜の鐘」が、龍神の願いを今に伝える形で撞かれ続けています。

梵鐘ものがたり

弁慶が勇力戯に三井寺の梵鐘を叡山へ引揚る図(東京富士美術館)

初代の霊鐘堂に保管される鐘 – 「弁慶の引摺り鐘」

初代の鐘は「霊鐘堂」に保管されています。奈良時代に作られた古代の大型鐘であると考えられています。外観は當麻寺の鐘に似ており、文様は興福寺の鐘と類似しているとのこと。この鐘には、園城寺と延暦寺との争いに絡む伝説があり、武蔵坊弁慶がこの鐘を奪い取って延暦寺まで引きずり、谷底に投げ捨てた時の傷が残されています。

金堂西方の霊鐘堂に安置される弁慶鐘(重要文化財)

田原秀郷という人物が瀬田の橋で大ムカデを退治し、その褒美として龍神から受け取った鐘を園城寺に寄進したとも伝えられています。

失われたミステリー 『 童子因縁之鐘』

三つ目の鐘は観音堂の高台にあるもので「童子因縁之鐘」と呼ばれています。この鐘には、大津の町に住む富豪が寄付を渋った際の因縁話が残されています。鐘が完成した際、鐘には三人の子供の姿が浮かび上がり、富豪の子供が三人忽然と姿を消したといわれています。これをきっかけに富豪は改心し、周囲から尊敬される人物となったそうです。残念ながらこの鐘は太平洋戦争時の金属供出によって失われました。

文化十一年(1814年)に上棟された鐘楼(重要文化財)

園城寺の三つの梵鐘には、それぞれに伝統と物語が宿っています。琵琶湖のほとりに響き渡る鐘の音は、過去と現在を繋ぐものとして、多くの人々に愛され続けています。

アクセス

住所

滋賀県大津市園城寺町246

ホームページ

https://miidera1200.jp/

お寺の鐘しらべ管理人

  • 東京在住のサラリーマン
  • 梵鐘の愛好家
  • 出張先や夜時間に梵活中

皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。

しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。

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