梵鐘単体の評価
京都・鳴虎報恩寺:鳴ると不吉『撞かずの鐘』都市伝説(重要文化財)
京都には数多くの歴史的寺院が点在していますが、その中でもひっそりと佇む「鳴虎報恩寺」は、その特異な名前とミステリアスな逸話で知られています。歴史の陰に隠れたこの寺は、訪問者に神秘的な体験をもたらしてくれます。
鳴虎の由来と豊臣秀吉の逸話
九州博物館「洛中洛外図屛風」
「鳴虎」という名前は、鳴き声をあげるトラの絵に由来しています。中国の画家、四明陶佾(しめいとういつ)が描いたこのトラの絵は、豊臣秀吉の目に留まりました。秀吉はその絵を大変気に入り、聚楽第に持ち帰ります。しかし、毎晩のようにトラが絵の中で吠え、秀吉を悩ませたと言われています。そのため、やむなく報恩寺に絵を返却したのです。当時の日本では実物のトラを見たことがある人はほとんどいませんでしたが、そのリアルな猛獣の表情は、秀吉だけでなく、誰もが興味をそそられたことでしょう。
梵鐘しらべ
時間 | 大晦日、晋山式 |
打数 | ー |
前捨て鐘 | ー |
実質 | ー |
後捨て鐘 | ー |
きわめて珍しいヘビの鬼瓦
屋根にハトがいると...
鳴虎報恩寺には、他では見られない貴重な鬼瓦が使われています。ハトのように見えるこの鬼瓦には、面白いエピソードがあります。お寺の人たちも長い間トリが飾り付けられていると思っていたそうです。あるとき屋根を修理するために呼ばれた職人が鬼瓦を地上に降ろして観察しました。すると、ハトではなくヘビがあしらわれていたことが判明したのです。
鬼瓦模様のルーツの可能性も
屋根瓦には一般に巴紋(ともえもん)と呼ばれる模様が描かれます。これは魔除けの願いを込めたもので、元々ヘビを表していたとも言われています。つまり鳴虎報恩寺のヘビ型鬼瓦は、広く使われている巴紋のルーツである可能性があります。
梵鐘ものがたり
平安最古の梵鐘とその伝説
報恩寺には、平安京で最も古い梵鐘が現存しています。この鐘は、撞座と龍頭の位置関係から古代鍾の特徴を持ちますが、実際には平安時代末期に作られたと考えられています。この鐘は、美術品としても評価が高く、表面には金剛界四仏の種子と九首の梵字真言が刻印されています。国の重要文化財に指定されながらも、不吉な都市伝説を持つ歴史遺産としての側面もあります。
この鐘が「撞かずの鐘」と呼ばれるようになったのは、不吉な出来事が起こるという伝説が影響しています。鐘を撞くと不吉なことが起こるため、日常では使われなくなり、今では大晦日の除夜の鐘や新住職の晋山式でのみ鳴らされる特別なものとなりました。
鐘が鳴るのは8回か9回か?
報恩寺が位置する西陣は、織物の生産が盛んなエリアとして知られています。江戸時代、機織り職人たちは、報恩寺の鐘の音を仕事の合図として利用していました。朝の鐘は始業の合図、夕方の鐘は終業を知らせる合図として鳴らされていました。
ARC浮世絵・日本絵画ポータルデータベースから「西陣高機織屋」
ある日、機織り娘と丁稚小僧が、夕方の鐘の打鐘回数について口論になりました。娘は9回、小僧は8回だと主張しました。小僧は、自分が正しいことを証明したい一心で、寺男に8回打つように頼みました。夕方の鐘が鳴り響き、耳を澄ませて数えたところ、確かに鐘は8回しか響きませんでした。娘はショックを受け、鐘楼で命を絶ってしまったと言われています。それ以来、鐘を撞くことは不吉とされ、日常的に鳴らされることはなくなりました。
豊臣秀吉ゆかりの寺宝が見れるチャンス
鳴虎報恩寺には、四明陶佾が描いたトラの原画が現存しており、その公開は非常に限られた機会にしか行われません。次回の公開は寅年の正月三が日、すなわち2034年です。しかし、原寸大のデジタル複製画は、お寺に予約をすればいつでも見学することができます。
今回お話を伺ったご住職の大橋憲宏さま
報恩寺には他にも不思議な伝説が残されています。寺名の由来となった『鳴虎図』は中国から伝わった絵画でリアルな虎が描かれています。原画は寅年の正月三が日のみ公開(次回は2034年)ですが、原寸大のデジタル複製画はお寺に予約をすれば見られます。
鳴虎報恩寺は、その名前に秘められたミステリアスな逸話や、悲しい伝説に彩られた場所です。歴史的な価値だけでなく、豊かな文化と深い物語を感じさせるこの寺院は、訪れる者に特別な感覚を与えます。この神秘的な空間を体験してみてはいかがでしょうか。
アクセス
住所
京都府京都市上京区小川通寺之内下る射場町579
お寺の鐘しらべ管理人
- 東京在住のサラリーマン
- 梵鐘の愛好家
- 出張先や夜時間に梵活中
皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。
しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。
「お寺の鐘しらべ」では、梵鐘にまつわる文化や歴史を通して、鐘の魅力を発信しています。朝活やお仕事後のひとときに楽しめるプチ旅行の参考としてもご活用いただけます。
一緒に梵鐘を巡る旅に出かけましょう!