
梵鐘単体の評価
滋賀・龍王寺:白蛇の物語と雨乞いの鐘(重要文化財)
滋賀県近江八幡駅からバスで約30分。のどかな田園地帯に、竜王寺(りゅうおうじ)はひっそりと姿を現します。奈良時代、高僧・行基によって開かれ、1300年を超える歴史を重ねてきた古刹です。
本来は予約制の拝観ですが、突然の訪問にもかかわらず、ご住職が丁寧に境内をご案内くださいました。静かな風景とその心づかいに、深く癒やされる時間となりました。

奈良時代の梵鐘と、町名の由来
境内奥の鐘楼には、奈良時代に作られたと推定される貴重な梵鐘がかかっています。銘文こそ刻まれていませんが、鐘の形状から1300年前のものと見られており、現存する奈良時代の鐘として非常に希少な存在です。

かつてこのお寺は「雪野寺(ゆきのでら)」と呼ばれていましたが、平安時代、一条天皇よりこの鐘に「龍壽鐘殿(りゅうじゅんしょうでん)」の名が賜られ、それを機に寺号を「竜王寺」へと改めました。さらに寺の名は町名へと発展し、今日の「竜王町」が誕生しました。梵鐘の名が地名の由来となったという、全国的にも珍しい例です。
梵鐘しらべ

時間 | 雨乞い儀式のみ |
打数 | ー |
前捨て鐘 | ー |
実質 | ー |
後捨て鐘 | ー |
白蛇伝説と玉手箱の鐘

この鐘には、悲しくも美しい伝説が伝わります。
奈良時代のある日、病を癒すためにこの地を訪れていた若者・小野時兼(ときかね)のもとに、絶世の美女・三和姫(みわひめ)が現れました。やがてふたりは子を授かり、穏やかな暮らしを送っていましたが、ある日、姫は「自分の正体は御澤池(おさわいけ)の白蛇だ」と告げ、形見として玉手箱を残して姿を消します。 その玉手箱から現れたのが、この竜王寺の梵鐘である、そんな物語が伝えられています。
竜王寺の境内にある「龍神池」と、「御澤神社の白水池」は、ともに白く濁り、地下でつながっているとも言われています。神話と信仰が重なりあう、古代梵鐘の物語です。
梵鐘ものがたり

地域を支える雨乞いの鐘
地元の伝承によれば、干ばつに見舞われた年には、実際にこの鐘に向けて雨乞いの祈願が行われてきたそうです。鐘の頂部にある龍頭(りゅうず)は、いまも白い布で覆われています。「この布を取ると大雨が降る」という言い伝えがあり、毎年の雨乞いの儀式のときにだけ、そっと布が外されるのだといいます。

アクセス
住所
滋賀県蒲生郡竜王町川守41
ホームページ
皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。
しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。
「お寺の鐘しらべ」では、梵鐘にまつわる文化や歴史を通して、鐘の魅力を発信しています。朝活やお仕事後のひとときに楽しめるプチ旅行の参考としてもご活用いただけます。
一緒に梵鐘を巡る旅に出かけましょう!