鎌倉・杉本寺:川端康成も耳を澄ませた、鐘の響き

杉本寺は、鎌倉で最も古い歴史をもつお寺です。鎌倉駅から金沢八景方面行きのバスに乗り、金沢街道沿いの大蔵山中腹に位置しています。この地・二階堂は、かつて川端康成や平山郁夫といった文化人が暮らしたことでも知られています。

参道の石段には鎌倉石が用いられており、長年の参拝者の往来によってすり減り、現在では使用されていません。その石段には自然に苔が繁茂し、古寺らしい静かな風情を感じさせてくれます。

奈良時代創建と杉の伝承

多くの鎌倉の寺院が鎌倉幕府成立後に建立されたのに対し、杉本寺は奈良時代の高僧・行基に由来するとされ、創建も奈良時代にさかのぼると伝わります。本堂には、行基作と伝えられる十一面観音像が安置されています。

鎌倉時代初期の1189年には火災に遭いましたが、その際、観音像が境内の大杉の下に避難したという伝承があり、これにちなんで「杉本寺」と名付けられたとされています。

梵鐘しらべ

時間夕方16時
打数7打
前捨て鐘
実質7打
後捨て鐘

梵鐘ものがたり

川端康成と晩鐘の記憶

杉本寺の境内には、昭和40年(1965年)に鋳造された梵鐘があります。この鐘は、毎日午後4時に7回撞かれます

この穏やかな鐘の音は「杉本寺の晩鐘」と呼ばれ、静かな谷戸に響きます。訪れた人はその音に耳を傾け、夕暮れのひとときを過ごします。

杉本寺がある二階堂エリアには、昭和初期から多くの文化人が暮らしました。特にノーベル文学賞作家・川端康成は、1930年頃からこの地に居を構え、多くの名作を生み出しています。

彼は昭和33年(1958年)に雑誌『俳句研究』で発表した短文「戯句とその心」で、次のように語っています。

日本の秋の夕映えの野に遠音さす鐘の声のやうに、
人の胸にしみて残るのが、自分の作品でありたいかとの心も、
この戯句に入れた。

杉本寺の晩鐘が、川端の心象風景に響いていたのかもしれません。

「杉本寺の晩鐘」は、「鎌倉らしい、代表的な景観」として「かまくら景観百選」に選定されました。杉本寺の静けさ、そして鐘の音は、古都・鎌倉の原風景のひとつとして今も受け継がれています。

アクセス

住所

神奈川県鎌倉市二階堂903

お寺の鐘しらべ管理人

  • 東京在住のサラリーマン
  • 梵鐘の愛好家
  • 出張先や夜時間に梵活中

皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。

しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。

「お寺の鐘しらべ」では、梵鐘にまつわる文化や歴史を通して、鐘の魅力を発信しています。朝活やお仕事後のひとときに楽しめるプチ旅行の参考としてもご活用いただけます。

一緒に梵鐘を巡る旅に出かけましょう!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA