上田技研産業が守る「お寺の鐘の音」

夕暮れ時、町に響くお寺の鐘の音。
誰もが心のどこかで懐かしさを覚える日本の原風景です.

しかし思い返してみると、身の回りでお寺の鐘を聞くことが少なくなっていませんか?

今回、そんな鐘の音風景を未来に残すため、挑み続ける企業──奈良県の上田技研産業を訪問しました。
日本で唯一の撞木(しゅもく)専門メーカー。その歩みと、新たな挑戦「ナムシステム」についてご紹介します。

近鉄富雄駅からバスで三碓へ

上田技研産業へは、近鉄富雄駅からバスで三碓(みつがらす)へ向かいます。
山々に囲まれた静かな地域に、全国のお寺から絶大な信頼を集める工房があります。

上田技研産業は、全国ほとんどのお寺に撞木を納めてきた、日本唯一の撞木専門メーカー。
今回、会長の上田全宏さんに直接お話を伺うことができました。

なぜ今、鐘の音が消えつつあるのか?

「昔は毎日鳴らしていましたが、今は除夜の鐘くらいですね」

多くのお寺で、そんな声を聞くようになりました。
人手不足、近隣への配慮、そして地域の過疎化──様々な要因で、鐘が鳴らされなくなってきています。

かつて、鐘の音は夕暮れの合図であり、人々の心を結ぶものでした。
しかし今、気がつけばその音は静かに消えつつあります。
子供たちが一度も鐘の音を聞かずに育つ時代が、すぐそこに迫っているのです。

革新的な挑戦──自動撞木「ナムシステム」

そんな危機感から生まれたのが、上田技研産業の自動撞木「ナムシステム」です。

きっかけは、近隣の根聖院で起きた人手不足問題。
「毎日鐘を鳴らしたいが、どうしても続けられない」。
この声に応え、上田会長はナムシステムを開発しました。

ナムシステムは、こうした役割を機械で正確に担い、全国3000を超える寺院に導入されています。
その音色は今や、日本各地だけでなく海外にも広がっています。

根聖院では11時30分と18時に6回打鍾される

文化を守るための「自動化」

「機械でお寺の鐘を鳴らすなんて……」
そんな違和感を覚える方もいるかもしれません。

しかし、ナムシステムがなければ、失われてしまった鐘の音は数知れないでしょう。
目黒不動(東京)では、朝6時と夕方6時に鳴らしていた鐘を、人手不足のため存続が危ぶまれました。
特に夕方の鐘は、子供たちの帰宅の合図として地域に根付いていたため、ナムシステムの導入によって守られました。

機械化とは、鐘の音風景を守るための「手段」。
懐かしい情景を未来へ残すために欠かせない取り組みなのです。

鐘音による地域おこしへ

上田会長は、さらにその先を見据えています。
今、日本では「無住寺(住職がいない寺)」が急増し、山間部では人の気配が消えることで、野生動物による農作物被害も問題となっています。

ナムシステムを活用して鐘の音を響かせることで、
「人がいる」ことを音で伝え、集落を守る──
そんな音による地域おこしプロジェクトも進められています。

もし、無住寺となってしまったお寺の鐘をご存じでしたら、「お寺の鐘しらべ」管理人までぜひご連絡ください。

上田技研産業さんが製造販売を手がける「宝山寺みそ」

未来へ繋がるお寺の鐘音──

上田技研産業のナムシステムは、単なる機械ではありません。
日本の音風景を、未来へつなぐ見えない力です。

夕暮れ時、ふと耳にする鐘の音。
その美しい情景を、これからも残していくために──
『お寺の鐘しらべ』も、鐘の音の大切さに耳を傾けたいと思います。

お寺の鐘しらべ管理人

  • 東京在住のサラリーマン
  • 梵鐘の愛好家
  • 出張先や夜時間に梵活中

皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。

しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。

「お寺の鐘しらべ」では、梵鐘にまつわる文化や歴史を通して、鐘の魅力を発信しています。朝活やお仕事後のひとときに楽しめるプチ旅行の参考としてもご活用いただけます。

一緒に梵鐘を巡る旅に出かけましょう!