『マツコの知らない世界』で紹介したい梵鐘(パート1)
TBS系列で毎週火曜日に放送されているトークバラエティ番組『マツコの知らない世界』に呼ばれることを勝手に想定して、セットリストを組んでみました。
1. 朝の定番。毎日見られる身近な鐘。
私たち日本人にとって身近なお寺の鐘ですが、人手不足や騒音問題の影響で、毎日打鐘するお寺はだんだん減ってきています。しかし、大きなお寺では打鐘しているところがまだまだ残っています。まずは、東京と京都。新旧の都を象徴するお寺の鐘を三つご紹介します。
① 東京・増上寺
徳川将軍家の菩提寺として、関東最大級の梵鐘を持っています。毎朝5時の打鐘は、6時からの法要の合図となります。江戸時代の「時の鐘」の名残として、明け六つ刻を知らせる役割も果たしています。
お寺の鐘の役割は大きく二つあります。仏教活動の道具として法要のための鐘。そして、近隣への時報としての役割です。増上寺の鐘は今もこの二つの役割を果たし続けています。
② 東京・築地本願寺
オリエンタルな趣の本堂が印象的なお寺。釣鐘搭に登る階段が危険なため一般人は立ち入りが禁止されています。毎朝6時30分に打鐘され、7時から朝の法要が始まります。法要の直前に打たれる喚鐘は本堂1階の中庭から見ることができます。お寺のレストランで提供される朝定食はとても人気がありまして、朝6時くらいから行列ができています。
③ 京都・東寺
毎朝6時に打鐘されます。御影堂では弘法大師に朝ご飯をあげる儀式、生身供(しょうじんく)が行われます。この法要は誰でも予約不要で参加することができます。観光客はもちろん、毎日参加する地元の人もたくさん集まります。鐘が鳴り終わるまでは御影堂に入ることはできません。しずかに広場で心を落ち着けます。
2. やっぱり層が厚い奈良・京都
① 奈良・東大寺
奈良時代に作られた国宝の梵鐘が、今も毎日現役で使われています。毎晩20時に打鍾されるこの鐘は日本最古級でありながら、1000年近く最も大きい鐘というポジションを維持してきました。3月のお水取り期間中は25時に打鐘されます。この鐘を撞くのはお坊さんではなく、代々受け継がれた家系によって伝統が守られています。
② 京都・東福寺
毎晩23時45分に打鐘されます。お寺は閉門されていて、打鐘の様子を見ることはできませんが、お寺の外にいても鐘の音が聞こえます。この深夜の鐘は東福寺を開山した聖一国師の活動にちなんだ伝統です。聖一国師は二つの寺の住職を兼務していたため、東福寺での職務が終わると、建仁寺に移動していました。現代でも、東福寺の鐘の音が建仁寺付近まで届いているという話です。
③ 奈良・新薬師寺
4月8日と大晦日の年二回のみ打鐘されます。銘が無いため特定はできませんが、日本最古級の古代鐘とされています。元興寺の梵鐘が移動してきたと言い伝えられています。鐘の表面には元興寺の鬼退治伝説にちなむ鬼の爪痕が確認できます。新薬師寺と元興寺の中間地点には、鬼が行方をくらました場所として不審ヶ辻という地名があります。
3. 全国のユニークな梵鐘あれこれ
① 名古屋・久国寺
岡本太郎がデザインした梵鐘で、「歓喜の鐘」という作品タイトルがつけられています。TAROの銘がしっかりと刻まれています。太陽の塔より5年前、ブレイクする前の作品です。鐘の上半分には無数の角が突き出していて、鐘の音が勢いよく発散されていく様子が表現されています。鐘の下半分には瞑想する仏、動物、サカナ、妖怪などあらゆるものが響きの中で喜ぶ姿を描いています。
② 京都・鳴虎報恩寺
鳴虎報恩寺の梵鐘は平安京で最古の歴史を誇ります。重要文化財として指定された美術品であるとともに、ミステリアスな都市伝説を持つ歴史遺産の側面も持ち合わせています。鐘を撞くと不吉な出来事が起きるため日常では使われなくなり、いつしか『撞かずの鐘』と呼ばれるようになりました。今では大晦日の除夜の鐘や新住職の就任式である『晋山式』の時にのみ使われています。
③ 狛江・泉龍寺
東京以外ではあまり知られていないお寺ですが、珍しい型の大きな鐘楼は必見です。お寺には奈良時代の僧侶・良弁(ろうべん)にまつわる伝説と品物が伝えられています。良弁はお寺の弁財天池で雨乞いの儀式を行ったとされています。この一帯の地名である和泉(いずみ)は弁財天池の湧水が由来とされています。
4. 文学作品に登場する梵鐘
① 奈良・長谷寺(枕草子、源氏物語)
梵鐘とほら貝が交互に響き渡る特別な風景は、古くから人々を魅了し文学に詠まれてきました。平安時代の古典文学では、藤原道綱母の『蜻蛉日記』、清少納言の『枕草子』、紫式部の『源氏物語』、そして、菅原孝標女の『更級日記』などに描かれています。
② 奈良・法隆寺(俳句)
正岡子規が明治28年に詠んだ俳句「柿食えば鐘がなるなり法隆寺」。これは西円堂の鐘が鳴り響く情景を作品化したものと考えられています。この日時に打鐘されていた鐘は西円堂のものだけだからです。いま使われている鐘は昭和に作られたもので、明治時代に使われていた鐘の所在は不明となっています。
③ 八王子・観栖寺(童謡)
日本人に親しまれる『夕焼け小焼け』は日本の夕暮れを彩る歌と言えます。帰宅の合図として親しまれる歌詞「お寺の鐘」は、多くの人に懐かしい風景を思い起こさせます。この「お寺の鐘」のモデルとされているのが東京都八王子市にある観栖寺です。
④ 浅草寺、寛永寺(俳句)
浅草寺にある梵鐘は、300年前に将軍徳川綱吉の命で製造されました。以来江戸の市民に時を告げる存在として親しまれ続けています。現代においても、小さく2回、その後に6回鳴らす打鐘の方式は、6時を告げる江戸時代からの伝統を踏襲しています。近隣に住んでいた松尾芭蕉は、名高い俳句「花の雲 鐘は上野か 浅草か」を残しました。この句は、浅草寺の鐘が江戸市民の生活の一部であったことを物語っています。
⑤ 大阪・釣鐘屋敷(歌舞伎・人形浄瑠璃)
江戸時代の物語である『曾根崎心中』は、人形浄瑠璃や歌舞伎で人気の演目です。主人公の徳兵衛とお初が心中を決意するクライマックスで、「七つの時が六つ鳴りて残る一つが今生の鐘の響きの聞き納め」とのセリフが流れます。二人が最期の地として選んだ曽根崎は釣鐘屋敷から約2キロほどであり、雪道の中を歩く二人がこの世の最期に聞いたのが釣鐘屋敷の鐘の音でした。
以上が『マツコの知らない世界』で紹介したい魅力的な梵鐘のリスト(その1)です。いかがでしょうか?
お寺の鐘しらべ管理人
- 東京在住のサラリーマン
- 梵鐘の愛好家
- 出張先や夜時間に梵活中
皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。
しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。
「お寺の鐘しらべ」では、梵鐘にまつわる文化や歴史を通して、鐘の魅力を発信しています。朝活やお仕事後のひとときに楽しめるプチ旅行の参考としてもご活用いただけます。
一緒に梵鐘を巡る旅に出かけましょう!