
梵鐘単体の評価
奈良・法隆寺東院:お正月を告げる中宮寺の鐘(重要文化財)
お正月の法隆寺で東院の梵鐘を取材しました。
法隆寺は広大で、東院(とういん)と西院(さいいん)に分かれています。世界最古の木造建築物群として有名な西院には奈良時代の梵鐘が伝わっています。一方、東院にも同じく奈良時代のものと思われる日本最古級の梵鐘があり、これはお正月三が日のみ撞かれる貴重な鐘です。その様子はYouTubeでも配信されているので、ぜひご覧ください。

世界最古の木造建築群としても有名な法隆寺・西院
東院は聖徳太子信仰の聖地
東院の場所にはもともと聖徳太子が政治を行った宮殿があり、その跡地に寺院が建立され、その後法隆寺と一体化しました。有名な夢殿や舎利殿があり、聖徳太子ゆかりの地として信仰を集めています。
西院の舎利殿では、正月三が日に「舎利講」が行われます。伝えられるところによると、聖徳太子の掌からこぼれ落ちた舎利一粒が水晶の入れ物に納められ、舎利殿に安置されています。普段は錦の袋に包まれていますが、舎利講の三日間だけ袋から取り出され、直接見ることができるそうです。私はその時間、外の鐘楼で響く鐘の音を聞いていたので、舎利を見ることはできませんでした。

舎利講は法隆寺で最も重要な法要のひとつ
梵鐘しらべ

時間 | 1月1日、2日、3日 13時 |
打数 | 7打 |
前捨て鐘 | ー |
実質 | ー |
後捨て鐘 | ー |
梵鐘ものがたり

和泉式部が詠んだ伝統の鐘
東院の梵鐘は、袴腰の鐘楼の中に吊るされています。そのため、通常は実物を見ることはできませんが、鐘には「中宮寺」という陰刻があると伝えられています。お堂守の方にお願いして探してもらいましたが、内部が暗く視認が難しいためか、確認することはできませんでした。
法隆寺は除夜の鐘の風習が無く、お正月の舎利講の鐘がそれに相当するそうです。1日7打、3日間で計21打撞くのがひとつの伝統になっているようです。これは昔から続く儀式で、現在でも続けられています。平安時代の歌人、和泉式部が次のような歌を詠んでいます。
「南無仏の舎利を出ける七つ鐘 昔もさそな今も双調」
この歌の「七つ鐘」とは、法隆寺で鐘を七打する伝統を指しています。「双調」とは、二つの旋律が調和して響くことを意味し、ここでは昔と今の鐘の音が変わらず美しく響き合う様子を表現していると考えられます。和泉式部は、この鐘の音が奈良時代から平安時代まで絶えることなく響き続け、人々の信仰を支えてきたことを詠んだのでしょう。

和泉式部(ARC浮世絵・日本絵画ポータルデータベース)
アクセス
住所
奈良県生駒郡斑鳩町法隆寺山内1−1
ホームページ
皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。
しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。
「お寺の鐘しらべ」では、梵鐘にまつわる文化や歴史を通して、鐘の魅力を発信しています。朝活やお仕事後のひとときに楽しめるプチ旅行の参考としてもご活用いただけます。
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