【文学で巡る旅】日本で最初の梵鐘をたずねて
現存する最古の梵鐘は、京都・妙心寺に伝わるものです。内側に「戊戌年四月十三日」と刻まれていて、西暦698年に造られたことがわかります。奈良・當麻寺の鐘は無銘ですが同じころのものと推定されています。どちらも1300年以上前の大変貴重な文化財です。

しかし仏教が伝わったのはもっと早く、聖徳太子の時代(6世紀末~7世紀初頭)。その頃のお寺に鐘はなかったのでしょうか。ヒントになるのが、中宮寺に伝わる「天寿国繍帳」です。622年ごろに作られた刺繍に、なんと僧侶が鐘を撞く場面が描かれています。つまり太子の時代にはすでにお寺で鐘が鳴らされていたのです。

さらに文献をひもとくと、『日本書紀』(720年)には推古天皇元年(593年)に法興寺(飛鳥寺)が建てられたことが記されています。そして『元興寺伽藍縁起并流記資財帳』(747年)には、僧寺と尼寺を「鐘の声が互いに聞こえる距離」に建てるべしと書かれています。つまり596年に創建された日本最初のお寺、飛鳥寺には創建当初から鐘の存在が前提とされていたことがわかります。状況証拠しかありませんが、これがおそらく日本最初の梵鐘だと考えられます。

では、その飛鳥寺の鐘は今どこにあるのでしょう。奈良時代の説話集『日本霊異記』には、元興寺の鐘楼で鬼を退治する話が残されています。元興寺には梵鐘が無く、鎌倉時代の頃に別のお寺に移されたと考えられています。お隣の新薬師寺の古鐘には「鬼の爪痕」と伝わる傷もあり、飛鳥寺の鐘とのつながりを想像させます。

日本で最古の鐘をたどる旅は、実物の鐘だけでなく、刺繍や古典、伝説の中にも響きを見いだすことができます。歴史と物語を重ねて耳を澄ませば、1300年前の鐘の音が、いまもどこかで鳴り響いているように感じられるでしょう。
元興寺(奈良市)
世界遺産にも登録された古刹。飛鳥から移された瓦がいまも残り、国宝の禅室や極楽坊には往時の雰囲気が漂います。春や秋の特別公開では、美しい仏像や庭園も楽しめます。

新薬師寺(奈良市)
本尊・薬師如来を守る十二神将像(国宝)は圧巻。躍動感ある表情は、千年以上前の造形とは思えないほど。境内に伝わる古鐘は「鬼の爪痕」の伝承で知られます。

當麻寺(奈良県葛城市)
中将姫伝説と国宝・當麻曼荼羅で有名。東西二基の三重塔は奈良時代の姿を伝え、日本最古級の塔として必見です。鐘楼の鐘も古代の趣を漂わせています。

妙心寺(京都市)
現存最古の鐘が伝わる禅寺。広大な伽藍は見どころが多く、境内の塔頭寺院ごとに趣きの異なる庭園や建築を楽しめます。

鐘をたずね歩く旅は、単なる歴史探訪を超えて、物語や伝承に触れる時間でもあります。奈良や京都を訪れた際には、ぜひ梵鐘に耳を澄ませ、古の響きを感じてみてはいかがでしょうか。
皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。
しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。
「お寺の鐘しらべ」では、梵鐘にまつわる文化や歴史を通して、鐘の魅力を発信しています。朝活やお仕事後のひとときに楽しめるプチ旅行の参考としてもご活用いただけます。
一緒に梵鐘を巡る旅に出かけましょう!