京都・妙心寺:徒然草に登場した日本最古の梵鐘(国宝)

妙心寺は、東京ドーム6個分に相当する広大な敷地をもつ日本最大の禅寺です。京都市右京区花園に位置し、その地名が示す通り、かつて広大な花畑が広がっていたこの地は、第95代花園天皇がこよなく愛した場所でした。花園天皇は1342年(康永1年)にこの地に離宮を構え、後にこれを禅寺へと改めました。これが妙心寺の始まりです。豊かな自然環境に恵まれた「西の御所」として親しまれています。

境内の道の両側には塔頭が並ぶ

境内には本山と38寺院がひしめく

妙心寺の境内には38の塔頭(たっちゅう:寺院に属する個別のお寺)が点在しています。境内の外にも塔頭があり、たとえば石庭で有名な世界遺産・龍安寺もその一つです。

この案内板に載ってるお寺はすべて妙心寺の塔頭

九州で作られた日本最古の梵鐘

国宝梵鐘は法堂内に展示されている

妙心寺には雲竜図、明智風呂など、多数の見所があります。その中でも、梵鐘は特に注目に値します。戊戌(つちのえいぬ)年、西暦698年の銘文があり、製作年が確認できるものとしては日本最古の梵鐘です。大宰府の観世音寺に全く同じ形の梵鐘が存在していて、同じ作者によって同時期に制作されたと考えられています。九州筑紫で制作され、当初は九州地方のお寺で使われていましたが、後に聖徳太子が建立した大阪の四天王寺で雅楽器の調律に使用するため近畿に運ばれ、最終的に京都に移設されました。

梵鐘しらべ

時間     5時30分  18地30分  20時
打数
前捨て鐘
実質
後捨て鐘

「花園」とラグビーの二つの顔

花園と言えば、多くの人がラグビーを連想するかもしれません。実際、妙心寺が運営する花園高校は、ラグビーの名門校として知られ、京都府代表として全国大会の常連校です。TBS系テレビドラマ「スクール☆ウォーズ」では、主人公チームのライバルとして登場する相模一高のモデルが花園高校と言われています。

一方で、「花園ラグビー場」という名前を聞いたことがあるかもしれません。これは大阪府にあるラグビー施設で、花園高校とは直接の関係はありません。花園ラグビー場では全国高校ラグビー大会が開催され、この大会は「花園大会」とも呼ばれます。これは高校野球の「甲子園大会」と同じように、場所の名前が大会の通称となっている例です。

つまり、高校ラグビーで「花園」と言うと、全国大会を指すこともあれば、京都の強豪校を指すこともあり、「花園大会」で「花園高校」が活躍することがあるため、特に関東の人にとっては少し混乱するかもしれません。

梵鐘ものがたり

オリジナルを忠実に再現したレプリカ鍾

お米と交換された国宝梵鐘

この梵鐘が妙心寺に移った経緯には諸説あるみたいですが、ひとつ興味深い逸話があります。初代住持の関山慧玄(かんざんえげん)が妙心寺の門前で鐘を運んでいる農民に出会い、その鐘をどうするのか尋ねると、農民は鐘を売って農機具と取り替えるつもりだと言いました。そこで、妙心寺に梵鐘がなかったことから、関山慧玄は鐘を鳥目一貫文(ちょうもくいっかんもん:米十石相当)で農民から買い取りました。一石は大人が一年間に食べるお米の量、すなわち年間食費に相当します。現代の年間食費は一名30万円くらいなので、300万円くらいで買い取ったということになりますね。

毎日どこかで鐘が鳴る境内

イエズス会の紋章が伝わる春光院

この日本最古の国宝鐘は老朽化が進み、ひび割れの危険があるため、法堂内に移設展示されています。法堂の北西にある鐘楼では国宝鐘のレプリカが使われていて、毎朝5時30分、夕方の昏鐘(こんしょう)、20時の初夜五更で毎日鳴らされています。昏鐘の時間はカレンダーで細かく変わります。11月1日~2月28日は17時。3月1日~3月20日は17時15分。3月21日~4月10日は17時30分。4月11日~9月20日は18時30分。9月21日~10月10日は17時30分。10月11日~10月31日は17時15分です。妙心寺は広大な敷地を持つため、他にも梵鐘があり、それぞれ別の時間に鳴らされています。また、塔頭でも自前の鐘が打鐘されるため、毎日境内のどこかで鐘の音が響き渡ります。

徒然草に登場した妙心寺と西園寺の梵鐘

東大寺で鐘の下を見学する人たち

妙心寺の梵鐘は、古来から「黄鐘調の鐘(おうじきちょうのかね)」として親しまれてきました。鎌倉時代の随筆『徒然草』第220段にもこのことが書かれています。

「凡そ、鐘の声は黄鐘調なるべし。これ、無常の調子、祇園精舎の無常院の声なり。西園寺の鐘、黄鐘調に鋳らるべしとて、数多度鋳かへられけれども、叶はざりけるを、遠国より尋ね出されけり。浄金剛院の鐘の声、また黄鐘調なり。」

これは現代語で「鐘の音の基本は黄鐘調だ。永遠を否定する無常の音色であり、祇園精舎にある無常院から聞こえる鐘の音なのだ。西園寺に吊す鐘を黄鐘調にするため何度も鋳造したが、結局は失敗に終わり、遠くから取り寄せることになった。亀山殿の浄金剛院の鐘の音も、諸行無常の響きである。」という意味です。

妙心寺の鐘は日本一古いだけでなく、その音程の良さも高く評価されています。ちなみに徒然草で引き合いにされた西園寺の鐘ですが、これはいま金閣寺で使われている梵鐘ではないかと考えられています。銘が無いので正確な年代は不明なのですが、奈良時代頃の古代鍾の特徴が見られます。週末は200円で参拝者が鐘を撞くこともできます。とてもいい響きの梵鐘だと思います。

アクセス

京福電鉄北野線の妙心寺駅から徒歩5分くらいです。

住所

京都府京都市右京区花園妙心寺町1

ホームページ

https://www.myoshinji.or.jp

お寺の鐘しらべ管理人

  • 東京在住のサラリーマン
  • 梵鐘の愛好家
  • 出張先や夜時間に梵活中

皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。

しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。

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