横須賀・円照寺の沈鐘伝説(横須賀市指定文化財)

8月11日、神奈川県横須賀市走水にある円照寺を訪問しました。ここには不思議な伝説を持つ梵鐘が伝わっています。

走水港は今も多くの釣り船が出る漁港で、特にブランド魚「黄金アジ」が有名です。金色に輝く鮮やかな魚体と、脂の乗った抜群の味わいが人気を集め、漁業の盛んな港町です。

漁港を見下ろす海沿いの高台にある円照寺には、幕末の文政5年(1822)2月、走水沖で漁師・利兵衛が網にかけて引き揚げ、寺に納めた鐘(市指定文化財)と写経が祀られています。高さ約44cmの小型の鐘は、檜の厚板で厳重に封じられていて、中には法華経が収められていました。経文の奥書には、鎌倉時代終わりごろの「元徳2年(1330)8月に竜宮城へ奉納する」と書かれています。こうした“沈鐘(ちんしょう)”の伝承は各地にありますが、円照寺に伝わる鐘は経文を“内封”したまま海中に沈めた実例記録が明確に残る点がきわめて貴重です。

円照寺の鐘は通常非公開ですが、年に3回だけ見るチャンスがあります。8月11日、11月1日そして元日です。引き揚げ時の状況については、鐘口を檜板で塞いであったため“斧で破って中身を取り出した”という伝承があり、それを裏付けるように鐘の表面には大きな傷跡が確認できます。

漁業の港町に残されたこの梵鐘は、東京湾の歴史と龍神信仰を今に伝える、非常に貴重な文化財といえるでしょう。

お寺の鐘しらべ管理人

  • 東京在住のサラリーマン
  • 梵鐘の愛好家
  • 出張先や夜時間に梵活中

皆さんお寺で鐘を鳴らした経験があると思います。お寺の鐘、梵鐘(ぼんしょう)はとても身近な文化です。それぞれの寺や地域の歴史を反映し、豊富なバリエーションが存在します。

しかし最近では騒音問題や人手不足により、その文化は急速に失われつつあります。日々の生活や街の風景が変わる中で、鐘の音は変わらない唯一の文化遺産です。

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